次の週、いつも通りに高等部へ向かうと、これまで通り、日吉先輩が迎えてくれた。



「部活に向かう前に、少し話しておきたいことがある。」

「?・・・・・・はい、わかりました。」



でも、日吉先輩は突然そんなことを言った。
不思議に思いながらも、私は日吉先輩について行く。
・・・・・・本当、何の話??何だか、大事な話っぽいような・・・・・・?
門をくぐった後、いつも歩く道からは少し外れた所に来た。



「突然で悪いが、聞いてほしい。」

「は、はい。」

「俺はのことが好きなんだ。」



・・・・・・・・・・・・・・・は、はいぃぃぃ?!!!!!!!!!!!



「え?あ、あの・・・・・・日吉先輩??」

「お前を後輩として、ではなく、異性として好きなんだ。」

「!!」

「俺自身、お前のことは、気になる・・・・・・と言うより、気にかけるべき後輩・・・・・・でもないか。気にかけるべき年下、だと思っていた。」



やっぱり、私のことは年下扱い、だったんだ・・・・・・。
でも・・・・・・?



「だが、跡部部長や忍足先輩、向日先輩・・・・・・と言うか、他の先輩たちや鳳と樺地にも、を取られたくない、というような気持ちを持っている自分に気が付いた。」



それって・・・・・・嫉妬してくれてた、ってこと?



「いや、気付いた後も、気付いていないふりをしていた。は俺にとっては、妹のような存在なのだと思い込もうとしていた。」

「・・・・・・。」



日吉先輩がこれまで、どんなことを考えてきたのか。それを日吉先輩はいつもの調子で、淡々と話してくれている。
でも、こっちはそんな冷静でいられるわけもなく。どこかボンヤリとしながら、先輩の話を聞いていた。



「でも、この間、俺が名前を呼んだ時、お前はとても嬉しそうに笑ってくれた。その時、俺は自分の気持ちに嘘はつけない、と思った。」



やっぱり、私ってわかりやすかったのかな・・・・・・。
なんて。今、考えるべきことは、もっと違うことのはずなのに。



「・・・・・・悪い、一方的に話しすぎた。」

「あ、いえ!」



と言うか、私も何て返せばいいのか、よくわからなくなってた、と言うか・・・・・・。



「とにかく、俺の気持ちを知っていてほしかったんだ。別に、今すぐ答えを聞きたいわけじゃない。ゆっくり考えてみてくれ。」



そう言い終えると、日吉先輩は緊張が切れたかのように、少しだけ息を吐いた。
あまり変わらないように見えたけど・・・・・・やっぱり先輩も緊張してたの?
けれど、すぐに元に戻り、まるでこんな話をしていなかったみたいに、いつも通りの表情を私に向ける。



「遅くなったな。そろそろ部活に行くか。」

「ま、待ってください!!」

「・・・・・・?」



わ、私、何言ってるんだろう?と言うか、今から何を言うんだろう??
わけもわからないまま、ただ日吉先輩を呼び止めた。
え、えっと。だから、私は・・・・・・。



「私、日吉先輩のこと、好きです!!」

「っ!?」



・・・・・・ちょ、ちょっとー!!!!!私、今、何言った?!!



「あ、あの、ですね!えと、その・・・・・・!」

「・・・・・・っ、くく。」

「え、えぇ?!」

「とりあえず、落ち着け。」

「あ、はい・・・・・・。」



笑われた・・・・・・。
でも、日吉先輩の声がどこか優しく感じられて、笑われたこと自体はあまり恥ずかしくなかった。
そのおかげで、日吉先輩の言葉通り、落ち着くことができた。



「それで・・・・・・。お前も、俺のことが好きなのか?」

「は、はい。」

「それは、先輩として、ではなく、ということか?」

「はい、違います。」

「そうか・・・・・・。」

「はい。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



あれ?この後、どうしたらいいの?
せっかく落ち着いたはずなのに、また頭が混乱してくる。
え、え〜っと・・・・・・。もしかして、付き合ってください、とか??!



「で、ですので、先輩っ!よ、よろしければ・・・・・・!」

「待て。」

「は、はい!」

「その後は、俺が言う。」

「・・・・・・わかりました。」



日吉先輩に任せていれば大丈夫。
そんな気持ちで、静かに先輩の言葉を待った。
・・・・・・とは言え、やっぱり緊張はするけど!



。あらためて言う。」

「はい。」

「俺は、お前のことが好きだ。だから・・・・・・、付き合ってもらえるか?」

「・・・・・・私でよければ、喜んで。」

「ありがとう。」

「いえ!こちらこそ、本当にありがとうございます!とっても嬉しいです!!」



最後は、いつもみたいに笑顔で答えた。
そしたら、また日吉先輩に笑われてしまった・・・・・・。
私は、やっぱり反応がわかりやすいんだって・・・・・・。でも、日吉先輩に、そんなところが見ていて面白い、なんて楽しそうに言われちゃったら、それでいいかなって思っちゃうじゃない!

そんなこんなで、付き合うことになった私たち。
それからも、変わらず、高等部の部活にお邪魔してたから、お姉ちゃんや先輩たちにからかわれたりすることもよくあった。でも、皆さん、私たちを応援してくださってるからこそ、ってわかるから嬉しい。
・・・・・・恥ずかしくもあるから、程々にはしてほしいんですけどね!

でも、お姉ちゃんが部活を引退した後は、私も行くのをやめた。
お姉ちゃんは気にせず続ければいい、って言ってくれたけど。そもそも、お姉ちゃんがいるから、ってだけでお邪魔するのも、かなり図々しいと思うのに。そのお姉ちゃんがいない部活にお邪魔するなんて、考えられない。
それに、日吉先輩とは付き合ってるんだから。部活以外で会うこともできるし!・・・・・・なんて言えば、またお姉ちゃんにからかわれるから言わないけど。

ただ、ちょっと悩んでいることがある。
それは・・・・・・日吉先輩の誕生日をどうするか。
今年、先輩の誕生日である12月5日は平日。だけど、水曜日。つまり、私は部活が休みだから、高等部に行くことはできる。
・・・・・・でもな〜、やっぱりお邪魔するのはどうなんだろう?

と考えていたけれど。しばらくして、ふと思い立った。
そうだよ。別に、部活に行く必要はないんだ。先輩の部活が終わる頃、高等部に行くのはありじゃない?
うん、それだ!

そんなわけで、12月5日は図書室で時間をつぶした後、高等部に向かい、門の前で日吉先輩を待った。
プレゼントはちゃんと持ってきたし・・・・・・って、確認しなかったけど、今日、部活あるよね・・・・・・?
日吉先輩が休んでないか、とかも聞いてないし・・・・・・。
ちょっと不安になりかけた時、誰かが私の横で立ち止まった。もしかして。



「あ、日吉先輩。こんにちは。」

「・・・・・・?!何してるんだ、こんな所で・・・・・・。」



日吉先輩が驚いた様子で、こっちを見ている。
ふふ、サプライズで来た甲斐があったね!



「日吉先輩、お誕生日おめでとうございます!・・・・・・って、直接言いたくて。」



言ってから、ちょっと照れくさくなって、少し俯いた。
そのついでに、鞄からプレゼントを出そうと手を動かそうとした瞬間、その腕を日吉先輩にぐいと引っ張られた。



「わっ!あ、の・・・・・・?」



驚く私に何も言わず、日吉先輩は私の腕を掴んだまま、足早に歩きだす。
わけもわからず慌ててついて行くと、前に告白してもらった場所へ来た。
そこに着いてすぐ、日吉先輩は掴んでいた私の腕を離した。・・・・・・でも、先輩は向こうを向いたままだ。
え、なに・・・・・・?もしかして、日吉先輩・・・・・・怒ってる?
まだこっちを向いてくれないから、表情はわからない。でも、どこか張りつめた雰囲気がある。



「あの・・・・・・日吉先輩?」



恐る恐る声をかけると、日吉先輩がやっと振り返ってくれた。そして、こっちに近づいて来てくれた。
どうやら、怒ってはいない?と考え始めた時。



「悪い。」



日吉先輩がそれだけを言い、いきなり私をギュッと抱きしめた。
え、え、えぇぇぇー?!!!!
展開についていけず、固まってしまう。



「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



しかも、日吉先輩は何も言わず、ただ私をギュッと抱きしめるだけ。
え、え、本当、何?!
さすがに耐え切れなくなって、声をかけた。



「先輩?その・・・・・・どうされたんですか?」

「・・・・・・そうだな。急に悪かった。」



そう言って、日吉先輩は私を解放してくれた。
あ、いや、別に、抱きしめられること自体はやめてもらわなくても・・・・・・って、何恥ずかしいこと考えてるの、私?!
なんて、内心動揺しまくっている私に気付く様子もなく、日吉先輩は目を閉じ、ため息を吐いていた。
・・・・・・?



「日吉先輩・・・・・・?」

「だが、元はと言えば、お前が悪い。」

「え・・・・・・?」

「いや、悪くはないんだが・・・・・・。」

「?」



残念ながら、全く理解できない・・・・・・。
詳しい説明を聞こうとじっと待っていると、日吉先輩が少し言いにくそうにしながらも話しだしてくれた。



「その・・・・・・、まさか、お前が会いに来てくれるとは思っていなかった。だから・・・・・・気持ちが昂ってしまった。」



気持ちが昂る・・・・・・それって、悪い意味じゃないよね?



「それに、またお前は可愛い笑顔を見せてくれるから・・・・・・無性に抱きしめたくなった。」

「!!」

「さすがに、あんな人通りの多い所でそんなことをするわけにもいかないからな。俺も我慢した。」

「が、我慢・・・・・・ですか・・・・・・。」

「ああ。ここに来たのも、気持ちを落ち着けようと思っていたんだが・・・・・・。逆に、人気の無いことに安心して、結局抑え切れなくなった。」



な、何だか、とてつもなく恥ずかしいことを言われている気がするのですが・・・・・・?!
日吉先輩の顔を見ていられなくなって、下を向く。
すると、目に入ってきたのは、私の足と、日吉先輩の足。
・・・・・・そうか。さっきまで、抱きしめられてたから、こんなにも近い・・・・・・って、あぁ!!結局、恥ずかしい!!
なんか、もう、顔だけじゃなく、全身が熱い。



「・・・・・・でも、お前も拒まなかったな。ということは、嫌じゃなかった、と受け取ってもいいのか?」

「・・・・・・。」



何も言えず、下を向いたまま、うなずいた。



「はぁ・・・・・・。お前は本当・・・・・・。」



そう言い終えた後、日吉先輩は、私の頭の上に手を置いた。
恐る恐る顔を上げると、先輩も目を合わせづらくなったのか、顔をそらしている。



「先輩・・・・・・?」

「あまり、こっちを見るな。また抑えられなくなる。」

「っ!」



日吉先輩の言葉に従おうかとか考える前に、反射的にまた俯いた。
・・・・・・でも、よくよく考えれば、恥ずかしいのは恥ずかしいけど。日吉先輩にも言ったように、先輩に・・・・・・その・・・・・・抱きしめられること自体は全然嫌じゃない。嫌なわけない。
先輩が抑えられない、っていうのも、そこまで私のことを想ってくれてるんだ、って思えて嬉しい。
だから、問題なのは、やっぱり恥ずかしいかどうか、ってだけで・・・・・・。
それに、思わぬ展開に忘れそうになってたけど。今日、私は何のために、ここに来たの?



「・・・・・・日吉先輩、大丈夫です。」



そう言いながら、日吉先輩の方を見る。先輩はまだ顔をそらしたままだ。



「何が大丈夫なんだ。」

「私、先輩に抱きしめてもらえて恥ずかしかったですけど・・・・・・嬉しくもありました。」

「・・・・・・でも、恥ずかしいんだろ?無理をさせるわけには・・・・・・。」

「無理じゃないです!」

「!」

「それに、今日は先輩のお誕生日。先輩のしたいようにしてください。」



笑顔でそう言う私とは対照的に、日吉先輩は余計困ったような顔をした。
私・・・・・・何かマズイこと言った?
そんなことを考えていると、日吉先輩は息を大きく吐いた後、こっちを見た。



「・・・・・・・・・・・・じゃあ、を俺のものにしたい。」

「え・・・・・・?」

「そう言えば、何でもさせてくれるのか?」



何でも・・・・・・?って言うか、先輩のものにする、って・・・・・・。
つ、つまり・・・・・・そういうこと?!!!
いや、私も、先輩のしたいようにして、とか言ってしまったけど!!!そういう意味じゃないって言うか!!



「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってください・・・・・・!!」

「・・・・・・安心しろ。俺もそこまで焦ってない。」

「・・・・・・へ?」

「少しからかっただけだ。」

「せ、先輩っ・・・・・・!!」



私が怒ると、日吉先輩はやっといつもの雰囲気に戻った。
・・・・・・って、先輩だけズルイ!



「さっきも言ったが、が会いに来てくれ、その上、俺のしたいようにすればいいなどと言ってくれたら、俺も調子に乗ってしまう。」

「だ、だからって、さっきみたいな冗談はやめてくださいっ!ビックリするじゃないですか!」

「あれも嘘を言ったわけじゃない。半分は本気だ。」

「え・・・・・・。」

「だが、さっきも言った通り、焦っているわけじゃない。そういうことは、ちゃんと順序というものがあるだろう。」

「・・・・・・そ、そうですね・・・・・・。」

「いずれ、そうさせてもらう。」

「・・・・・・わかりました。」

「・・・・・・だから、お前、そこでそういうことを言うな。」



そう言った日吉先輩は、さっきみたいに顔をそらしたりすることなく、私をからかうように笑っていた。
本当、先輩だけ、普段通りになって・・・・・・!私はまだ恥ずかしいんですけど?!



「じゃあ、何て言えばいいんですか?!」



だから、そんな風にまた怒った口調で返したけど、日吉先輩はまた笑うだけだった。



「悪かった。お前の気持ちは嬉しい。・・・・・・そうだ、まだ言ってなかったな。」

「・・・・・・何ですか。」

、今日はありがとう。」



ムスッとした私に、日吉先輩は優しい笑顔でそう言った。
・・・・・・本当、ズルイ先輩だ。
でも、今日の先輩は、これまで以上に、いろんな反応を見せてくれたと思う。それに、私が来たことにも、すごく喜んでくれた。
だから、許しといてあげますよ!
・・・・・・なんて偉そうなことを思いながら、その後、先輩にプレゼントを渡し、そして、一緒に下校した。誕生日である先輩からの要望で、手をつなぎながら。









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はい、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございましたー!
そして、日吉くん、お誕生日おめでと〜!!

さて、ぶっちゃけると。この作品、本当は誕生日用に書いていたわけじゃありません!(←)
第一話のあとがきにある通り、“年下ヒロイン”を書きたかっただけなのです。そして、第二話のあとがきには、実は「とりあえず、次で終わらせたい。と言うか、終わる予定です(笑)。」とも書いていました。
しかし、第三話を書いている辺りで、「やっべ!今年の誕生日用のネタが無い!!」と思い出し、「あ。ここに書きかけの日吉夢があるじゃないか!」と急きょ、誕生日編を追加しました(笑)。だから、第三話がちょっと短くなったんです(本当は、日吉くんからの告白、で終わる予定だったので)。
まぁ、誕生日編を描くことで、日吉くんの動揺している姿とかも出せたので、結果オーライかな、と自分では思っています(笑)。

('12/12/05)